人間は頭でものを考える生きものだから、
ついつい物事を複雑に捉えてしまうけど。
ふと、自然界に目をやると、
からまった糸がすっと解けるかのように、
生きものとしての在り方を示してくれている。
木々も草花も虫も、決して自分だけでは生きていないし、
生きられないことを、予め、その生命の中に刻んでいる。
そして、生きものとして、ただ生きられるように、
光のある方へ葉を広げ、水の在処を求め根を伸ばそうとする。
何の疑いもなく。
人間も、たぶんおなじなのだ。
その人が、その人として生きられるように、
すべてのことは与えられているのだろう。
それが例え、痛みを伴う困難なことであっても、
人生を遠回りさせることであったとしても。
だから、
あなたがその生命を生かそうとすれば、
その生命は、必ず生きる。
あなたを生かすために。
あなたが、あなたとして生きられるように。
その生命は、生きて、あなたに応える。
それは、草花同様に
何の疑いもないことなのです。
大丈夫。
吉野弘「生命は」