大阪滞在、最後の日のこと。
御堂筋線の中津駅からiTohenさんへ向かう道すがら、
自動販売機の硬貨口に手を突っ込んでもぞもぞしているおじさんが見えた。
ぼさぼさの髪、くろずんだ顔、くたくたの服、おっきく膨らんだビニール袋、
どこからどうみても、ホームレスのおじさんだった。
自動販売機のたびに硬貨口をまさぐってはため息をついている。
「おなかすいた。もうずっと、何も食べてない。」
そんな顔をしている。
とっさに、今朝もらった「かりんとう」のことを思い出した。
滞在中ずっと家に泊めてくれてた友人が、お土産にと持たせてくれた
手作りの美味しい、かりんとう。
「これ、よかったら食べてください」
交差点の信号が変わる前に、そう言って手渡そうと思った。
でも、言えなかった。
勇気がなかったのかもしれない。
でも、躊躇したのには少しわけもあって。
その「かりんとう」は、ある方のお母さんが手作りされていて、
その方と旧知の仲である友人に届けられた大切なものだった。
それを「美味しいから食べて」と、お土産にひとつ分けてもらったのだった。
その晩遅くに博多の家に帰り着き、かりんとうを食べた。
疲れたからだにほっこりした甘さが広がり、本当に美味しかったし
持たせてくれた友人の気持ちもありがたかった。
でも、やっぱりわたしは後悔していた。
大切なお土産だった。
でも、だからこそ、
あのおじさんにも「食べてください」と言えたらよかった。
着物やさん帰りの道すがら。
昨日も、そして今日も、
あるお寺の石畳に、おじさんが座り込んでいた。
こんな言い方は良くないけど...
まだホームレスになりきれていない感じで、
うなだれ、途方に暮れている。
昨日は、横目に流しさっと自転車で走り抜けたけど、
今日はわたしの視線を感じたのか、一瞬、目があった。
「困っています」
哀しげな目に、そう、はっきりとあった。
今日はあいにく、かりんとうは持っていない。
この後悔は、ずっと続くのだろう...
だからせめて、それは忘れずにもっていよう。